2000 DECEMBER vol.64
 10月12日、朝4時にキーパーたちの大会初日が明けた。
 「やっぱり、まだ柔らかい!今日はスコアが伸びる」。朝の最終チェックに出かけた在原さんは、こわばった表情で言った。3日前に降った雨がまだ乾ききっていなかった。在原さんは大会直前のこの時、改めてコース管理をする上での、天候との駆け引きの難しさを痛感した。
 在原さんが試合展開を左右すると睨んだラフの芝起しのポイントについては、前日午後の作業で、目にした選手たちが残したディボッド跡がティから200ヤード前後と250ヤード前後の2カ所に集中していることに着目。在原さんは「今日は南風。フォローの風だ。選手たちはドライバーを使うに違いない」と判断。ボランティアたちに「ティショットの落とし所のラフを徹底的に起すんだよ。ムラがないように、フェアにな」と指示した。

 徐々に日が昇り、5年間待ち続けた舞台が幕を開けた。
 この日は、例年にない好天に恵まれ、日中の温度は30℃にも達した。その結果、適度に水分を吸った芝たちがさらに柔らかくなり、在原さんの心配していた“止まるグリーン”となった。もう一つの秘策だったラフの芝起しに関しても、ほとんどの選手はティショットをフェアウェイウッド、ロングアイアンで刻んだために不発に終わった。バーディが多発する展開で、選手たちはスコアを伸ばした。
 
 『ショットは悪かったが、パットに救われた』(4アンダー・川原希)。『今までの日本オープンの初日としては最高の滑り出し』(3アンダー・深堀圭一郎)など、ラウンド後の選手のコメントは、コースコンディションについてはあまり触れられていなかった。
 初日の結果は在原さんの惨敗に終わった。しかし、彼の表情に悲壮感は見られない。『大丈夫だ。グリーンは確実に硬くなる。あとはラフ起しをアイアンの落下地点に移動すれば、今日のスコアはもう出ないはずだ』。グリーンキーパーとしてのカンと長年の経験が選手たちのこれからの苦闘を予感させていた。


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