5打のアドバンテージを持って迎えた最終日。最終組のノリスの目の前で当面マークすべき小平智が崩れ去っていった。スタートホールで左ラフから左ラフ、さらにバンカーと蟻地獄にはまったようにもがき続け、5オン2パットのトリプルボギー。さらに続く2番では4パットのダブルボギー。あっという間にノリスの視界から消えていってしまった。でも、油断は禁物。誰が追い上げてくるかわからない。
7番でボギーを叩き、ひとつスコアを落としたノリスは、コース内にあるスコアボードで、池田勇太の追撃を知った。4番、6番ホールをバーディとした池田は、この時点で13アンダーパーになっていた。インにターンしてさらに10番でもバーデ
ィを奪い、14アンダーパーにする。この時点でノリスのリードは3打に縮まっていた。ちょっと焦った。そして「バーディが欲しい。取りにいかなければならない」と、それまでの安全運転からアクセルを軽く踏み込むようにした。
12番ホール。グリーンの右サイドの立っているピンを狙って、さらに右の狭いエリアを狙い打った。この1打がみごとにバーディチャンスにつき、軽いフックラインのパットをカップ真ん中から決めた。そして15番でもピン横からのパットを決めた。この2つのバーディで再び安全圏に抜け出したノリスは、もう無理はしなかった。あとは、バーディをとることより、ボギーを叩かないことを優先し、パーを重ねていった。
4打差。通算19アンダーパーでの優勝だった。2018年、2019年と2大会連続で2位(タイも含む)。念願の大会制覇では1994年大会(四日市カンツリー倶楽部)で尾崎将司がマークした18アンダーパーの最多アンダーパー記録を更新していた。
「キャディーをつとめ、データに基づくアドバイスをしてくれた弟(カイルさん)に感謝したい」
そのカイルさんは、高血圧の治療と薬補充のため、月曜日に帰国することになった。最終日が誕生日という偶然も重なった。「ホテルに戻ってから、慰労とお礼を兼ねての祝勝ディナーを楽しむ予定だ」と言った。優勝報告は来年2月に第2子誕生予定の夫人と、もうひとり、ジュニア、アマチュア時代からメンタル面のケアを担当してくれていた南アゴルフ協会の女性心理カウンセラーを挙げた。プロになってからもメンタルトレーナーとして助けてもらったというこの女性は、現在入院中で癌と戦っているそうだ。「優勝したことを報告すれば、きっと喜んでくれると思う」
カイルさんが帰国すると、キャディー役がいなくなる。「もう一人の弟に来てくれるように頼むつもりだけど、予定が立たないようならハウスキャディーをお願いするしかない。仕方がないね」
ノリスの周辺は、何かとあわただしく、この日の戦いのようにすんなり決着とはいかないようだ。
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