Japan Senior Open Golf Championship 2026日本シニアオープンゴルフ選手権
9月17日(木) 〜 9月20日(日)
玄海ゴルフクラブ
競技メニュー
競技報告:Y.Koseki 写真:Y.Watanabe / K.Aida

前日の第3ラウンド。宮本勝昌はショットメイクに苦しみ、1アンダーパー70どまりとなり、今季シニアツアーで最も安定した成績を挙げる岩本高志に首位に並ばれた。競技後、宮本は「明日も、(心が)ひりつくような」ラウンドになるだろうが、「最後まで前を切り拓きながらやりたい」と、激戦を覚悟したかのような言葉を口にし、「明日は、(岩本高志と)2人でいい優勝争いをしたい」と語っていたが……。果たしてこの日は、その言葉通りの試合展開になった。ただ、その宮本にしても、ここまでドラマチックな展開になるとは思いもしなかったはずだ。
宮本は「これだけエキサイティングなゲーム展開ができたことは、プロゴルファー冥利に尽きますし、シニアツアーも捨てたもんじゃないと思いました」と言うが、現場で、あるいはテレビ中継で観戦したゴルフファンのなかには、すべてのツアーを含めて「今季一番の名勝負」と興奮した人も少なくないだろう。
ドラマは4番ホールから始まった。宮本はバンカーショットに失敗し、痛恨のダブルボギーを喫した。「やっぱり苦しいですよ。第1ラウンドのダブルボギーとはわけが違うので。最終ラウンドのダブルボギーは一番やっちゃいけないことなのに、これもまた(自分の)ゴルフなのかな」と思いながら、このダブルボギーは「慌てず時間をかけて取り戻そう」と考えていたと話す。
ところが、この日の展開は違った。続く5番、6番ホールで連続バーディ。先行した岩本との差を1打としてハーフターンすることができた。
しかし、岩本が13番ホールでバーディをマーク。通算13アンダーパーで、その差は2打に開いた。「岩本君が(目の前で)素晴らしいゴルフをしていて、ミスする雰囲気もなかったので、早く追いつかなければと、14番ホールくらいからは正直ちょっと焦っていました」と宮本。また、そのころには崔虎星がするするとリーダーボードを駆け上がってきたことも知っていた。

迎えた15番ホール。岩本が前の14番ホールをボギーとしたため、その差が再び1打に縮まったところから、宮本のゴルフはよりドラマチックに展開する。「なかなかあそこまで大きなミスショットは……。シニアあるあるかもしれませんが、(自分でも)ちょっとびっくりしました」と振り返るティーショットは大きく右に曲がり、ボールは14番ホールとの間の林帯、枯れた松の葉がびっしり地面を覆うアップヒルの斜面に止まった。
そこからフェアウェイ方向に開けた空間は見えない。NHKのテレビ中継からは「ダブルボギー覚悟で、一か八かの勝負に出るしかないでしょう」といった解説が流れてきた。
だが、宮本は「僕の中では、ちょっとリスキーでしたけど」と、樹木の上空にフェアウェイにリカバリーできる確かな空間が見えていた。
ボールは松の葉の上、バックスウィングで後ろの木が気になったというタフな状況から「もう100点かな。ショット・オブ・ザ・デイに近いショットでした」と宮本。打球は林をクリアに抜け、ピンまで49ヤードのフェアウェイ上に。そして、そこからの第3打がピン奥、わずか30センチにピタリと寄った。会場はどよめき、大きな拍手・歓声に沸いた。
ゲームの流れを変えたかのような劇的なリカバリーとアプローチショットだったが、このときの宮本は気持ちを高ぶらせることはなかったという。「いつも考えていることですけど、(状況に)一喜一憂しないように普段から心がけているんです。こういう(ピンチの)時のためにじゃないけど、冷静を常に心がけています」。
ドラマチックな展開はまだまだ続く。次の16番(パー3)は「ティーショットを大きくショートして、ボールは(グリーン手前の)バンカーで半分目玉みたいになってました。そこから(第2打は)5~6メートルほどショートしたんですが、次のパーパットが入ったのが、優勝したからじゃないですけど、大きかったです」。そこでも、会場は大きくどよめいた。
さらに畳みかけるように、17番ホールは「第2打の残りが145ヤードぐらいかな。9番アイアンで、2メートルぐらいにつけてのバーディ」。一方の岩本がこのホールをボギーとしたため、ついに宮本は崔虎星とともに通算13アンダーパーで首位に並んだ。

そして、ドラマは最高潮を迎える。
18番ホールは526ヤードのパー5。ここをバーディとすれば、念願のタイトルを手にできる。しかし、そのためにはフェアウェイの右のバンカーは絶対に避けなければならない。「フェアウェイが狭いので気持ちよくは振れないんですけど。右のバンカーまでは270ヤードあったので、そこまでは行かないだろう」と振り切ったティーショットが思いのほかのナイスショット。「でも、それが真ん中に飛んでくれたのはラッキーでした」と宮本。ボールはバンカーの先端あたりの左、フェアウェイにあった。
「最終的に、僕の中ではこのティーショットと次のセカンドがショット・オブ・ザ・デイでした」。ピンまで249ヤード、3番ウッドで放たれた一打は大勢のギャラリーが取り囲むグリーン上、ピン方向に真っすぐ向かい、ピン手前14~15メートルに止まった。そして、続くイーグルパットがカップの真ん中からホールに吸い込まれると、会場は最後にもう一度大きくどよめいた。
しかし、この瞬間、宮本は「あまりに極度な興奮状態になると、人間って平常心になるんだなって。(どういう心理なのか)分かんないですけど、17番・18番ホールはすごい緊張してて、最後にイーグルパットが入った瞬間なんかはもう泣きそうなぐらいだったのに。なんでこんなに冷静なんだろうって」という心理状態にあったというのだ。
それでも、「(過去4年の)長年、欲しくて欲しくて」と挑み続けたタイトルを手にできたことには、「これだけ感情が入った優勝はなかなかないので、いつもよりもやっぱり興奮度が高い。2倍ぐらいかな。やっぱりいつもより嬉しさ倍増ですかね」と、ちょっと複雑な胸の内を語った。
ただし、この勝利は今後のゴルフ人生に影響するのか?という問いには、「こう言うと怒られるんだけど、(今後に影響は)しないですね」と即答。そのうえで、この優勝の喜びは自分よりも周囲、とりわけ家族のみんなが興奮し、喜んでいるだろうことが何よりうれしいと力を込めて語った。

最後に、今年の日本シニアオープンは大会史上、永遠に語り継がれるだろうドラマチックな展開だったが、このドラマには岩本高志というもうひとりの主役がいたことを忘れてはならない。競技終了直後、岩本はひと言「すべてに力不足でした」と苦しい胸の内を語ってくれた。
辛勝と惜敗の間の距離は、傍から見れば「紙一重」、それはちょっとした「運」の差のように思える。しかし、惜敗した岩本はそこに大きな隔たりを感じたのかも知れない。その岩本の思いを一番深く、良く理解できるのは、戴冠まで4度も悔し涙を流した宮本勝昌に違いない。