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報告:Y.Koseki 写真:Y.Watanabe / S.Osawa
ギャラリー数6,382人。関係者を含めると約7000人の観衆が詰めかけた東京ゴルフ俱楽部が最終盤、最終組が17番ホールを迎えたところから2度、割れんばかりの大歓声に包まれた。
そこまではいかにも日本オープンらしい、プレーヤーの“我慢”が試される息詰まるゲーム展開だった。トップタイ、通算3アンダーパーでスタートした木下稜介は16番ホールまで3バーディ・4ボギーで、通算2アンダーパー。一方、1組前でプレーする今平周吾は17番ホールまで4バーディ・3ボギー、通算3アンダーパーで木下を1打リードしていた。次に、木下が迎える17番は210ヤードと距離のあるパー3で、そこまでバーディをマークした選手はわずかに5人(難易度は10番目)。続く18番は難易度2番目。そこまでバーディはわずか1人。木下が今平をキャッチアップするチャンスはごくごく少ない。
そのタフな17番を迎えた木下は、そのときの状況をこう振り返る。
「14番、15番の連続ボギーが非常に痛かったんですけど、たくさんのギャラリーの方から『頑張れ!』『まだいける!』とお声がけをいただいて、その力で16番はガードバンカーからパーをセーブ。そして、ギャラリーの方のお陰で17番の奇跡のバーディショットにつながったかなと思います」17番、木下のティーショットはグリーン右サイドの深いカードバンカーにつかまった。ピンまでの距離は約15ヤード。このホールは、とにかくパーをセーブし、勝負の行方は今平の18番のスコア次第と思われた。
ところが、そこでミラクルが起こったのだ。ガードバンカーからの一打が直接カップイン。17番ホールは拍手・大歓声の地響きに沸いた。
しかし、その約10分後、今度は18番グリーンから大歓声が響き渡った。今平が20m近いバーディパットを沈めたのだ。この日、18番における2つ目のバーディだった。
木下は、その大歓声を18番ホールの第2打地点で聞いた。
「(今平が)バーディを獲ったのは分かりましたし、キャディさんと『次もバーディを獲るしかない』と話していました。17 番のバーディがあったから、そのセカンドショットはポジティブに打てたんですけど、ちょっと引っかかってしまって、良いショットにならなかった。あのプレッシャーの中でもうちょっとピンに絡めるショットが打てる技術を身につけたいです」と木下は悔しさを口にする。
負けたとはいえ、アンダーパーはわずか2人。今平と木下だけである。
「終わってみてアンダーパーだったので良かったんですけど、コースが非常に難しくて、目の前のプレーに集中することで頭がいっぱいでした。日本オープンは、年々獲りたくなるタイトルです。セッティングとかコースとか、若手の強い選手がどんどんきているので、そう簡単には獲れないと思いますが、今週プレーして思ったのはやっぱりこういうセッティングの方が自分には向いているのかなということ。だから、来年リベンジしたい」
この夏、木下は2度目となる全英オープンに挑戦した。しかし、そこで自分のゴルフがまったく通用しなかったことに衝撃を受け、スウィング改造を敢行した。当然だが、シーズン途中のスウィング改造には大きなリスクを伴う。それでも今回の結果に、木下は自分の決断は間違いではなかったと自信を深めた。
「じっとしていたら進化はない。ゴルフにゴールはありませんから」
来年の日本オープンでは、どんな木下稜介が見られるのだろう。今から楽しみだ。