
テレビ中継のインタビュアーの「惜しくも敗れてしまいましたけれど、この経験を今後にどのように繋げていきたいですか?」という質問に、直前まで涙をぬぐっていたように見えた桑木志帆は、それでも淀むことなくこう答えた。
「やっぱり、久々に悔しい思いをしたので、また強くなれる材料だと思ってます」。けっして強がりではない。桑木はこれまでも何度か、悔しい惜敗を糧に一段の成長を遂げてきた。
今年8月の全英女子オープンではプレーの面だけでなく、コースマネジメントやメンタル面でも逞しさを示し、見事に世界のメジャータイトルを戴冠した。この日本女子オープンでも第4ラウンドの12番ホールでバウンスバックをマークし、通算11アンダーパーで申ジエとの差を再度3打に広げたあたりまでは、その表情や仕草には揺るぎのない余裕が感じられた。
ところが、申ジエが13番からの6ホールで3つのバーディを奪って桑木に並び、プレーオフに持ち込まれる展開のなかで、桑木は「なんかジエさんがすごい良いプレーしてたんで、やっぱりあのぉ……。自分も応えたかったのに、あんまり納得できなかったです」と、そのときの胸の裡を明かした。外からはうかがえなかったが、申ジエに気圧されつつあったようだ。「申ジエからは執念のようなものが感じられましたか?」の問いに、桑木は正直、「ありました。やっぱり何ですかね、気合が入っている感じはありました」と答えた。

プレーオフの2ホール目。申ジエが第2打をグリーン左のバンカーに落とし、そこからのリカバリーもピン手前2メートルほどに留まるピンチの場面。一方の桑木は第2打をピン左、約5mにつけ、バーディチャンスを迎えた。ところが、そのパットは確かにラインに乗りながら、カップ手前10センチほどで勢いを失い、停止した。テレビ解説の塩谷育代の口からは「珍しく打てなかったですね。桑木さんにとっては、ここが最大のチャンスでしたけどね」といったコメントが聞かれた。塩谷の指摘が的を射ていたことを裏付けるかのように、このとき桑木の顔からはいつもの笑みが消えていた。悔いがあったのだろう。
続くプレーオフ3ホール目も、先に放った桑木の約4メートルのバーディパットはやはりカップ手前、あと一転がりのところで止まってしまった。「雨でちょっと寒くて。それと、グリーンがちょっと重くなったのもあって、下りのパットだったので、(カップを超えるほど強くは打てないので)重い分届かなかったのかなと思います」と振り返ったが、このときの桑木の顔は強張っていた。自分のパットがまったく納得できなかったに違いない。
その直後、桑木の反対側から放たれたほぼ同じ距離の申ジエのバーディパットはカップに勢いよく飛び込んだ。
「力を出し切れた感覚なのか、それとももっとできたのか」という問いかけに、桑木は「結構80%ぐらいは出せたかな。あとはちょっと気持ちが足りなかったのかなと思います」と答えた。
桑木が考えるに、結局敗因は持てる力の20%の出力不足に加えて、「気持ち」の不足だった。「気持ち」の不足というのは、目の前の申ジエから伝わって来た「執念」に比べての思いであろう。そのことに、来年アメリカツアーに本格参戦する前に気づけたのは桑木にとっては良かったに違いない。それに気づかず、結果、アメリカツアーで自信を失うことのないように。
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